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大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)56号 判決 1985年3月28日

京都市左京区吉田中大路町三三番地

控訴人

角田吉夫

同所同番地

控訴人

神山ハツヱ

右両名訴訟代理人弁護士

飯村佳夫

水野武夫

田原睦夫

栗原良扶

尾崎雅俊

被控訴人

左京税務署長

浜口満

右指定代理人

布村重成

杉山幸雄

伊丹聖

高田安三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

原判決を取消す。

被控訴人が昭和五〇年二月四日付で控訴人らに対してした、控訴人らの昭和四八年分所得税の各更正処分(異議決定及び裁決により一部取消された後のもの)のうち、控訴人角田吉夫の分離短期譲渡所得金額中三六六万一六五七円、控訴人神山ハツヱの分離長期譲渡所得金額中二〇六二万八九七三円をそれぞれ超える部分及びこれに対応する過少申告加算税の各賦課決定処分、並びに控訴人角田吉夫に対する重加算税の賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。

一  訂正

1  原判決三枚目裏四行目「共有持分八分三及び」を「共有持分八分の三を、昭和四二年九月、」と訂正する。

2  原判決四枚目一行目「その後」を「昭和四八年七月六日」と、六、七行目「右分筆後のD、Eの土地」を「右分筆後のD、Eの土地にあたる土地部分二六五九・一二平方メートル(八〇五・一八坪)」とそれぞれ訂正する。

3  原判決四枚目裏四行目から六行目にかけて「A、Bの土地について有する各共有部分(原告角田吉夫は八分の一、原告神山ハツヱは八分の三)」を「A、B、Cの土地について有する各共有持分(A、Bの土地については控訴人神山ハツヱが八分の三、Cの土地については控訴人神山ハツヱが二分の一)」と訂正し、別表三の摘要2の算式を次のとおり訂正する。

<3> 収入金額

<省略>

4  原判決別表一の控訴人神山ハツヱ分の納付すべき税額の取消額の記載を、異議決定分「71550」を「71600」と、裁決分「1402650」を「1402600」とそれぞれ訂正する。

二  付加

1  控訴人ら

(一) 原判決は、控訴人らの円満院に対するA、B、Cの土地の共有持分の譲渡、中川らの円満院に対する右土地の共有持分の譲渡及び円満院の南箱根不動産に対する右土地の譲渡を、いずれも控訴人らの右土地の譲渡所得に対する課税を免れしめるためになされた仮装の意思表示であるとし、真実は控訴人角田吉夫が円満院の名を借りて中川らの共有持分をも取得したうえで控訴人らが右土地全部を直接南箱根不動産に売渡したものであると認定する。しかし、右認定は、なんら証拠に基づかないものであって、失当である。原審及び当審で取調べられた証拠によれば、控訴人ら及び中川らがその有する共有持分を株式会社まつもとに売渡したものであることは明らかである。買主である同社の所有権取得の意思表示は実質的には同社に名義貸与を依頼した円満院のためのものであるが、その点は心裡留保にすぎないのであって、控訴人ら及び中川らから同社への所有権移転の効果には影響がない。控訴人らの譲渡所得の有無は右の民事上の権利義務変動の法律効果を前提として決定すべきものである。

控訴人らと前記土地の最終取得者である南箱根不動産との間に株式会社まつもとないし円満院という中間取得者が介在しこれに利益が落ちる結果、控訴人らの所得が減少しそれに伴って所得税も減少したとしても、それは右各当事者の自由であって、なんら制約されるべきことではない。また、円満院が宗教法人であるためにその利益に対して課税されないとしても、それは法人税制がそうなっているからであって、円満院に所得をもたらした当事者の取引自体はなんら非難されるべきものではない。まして、被控訴人や原判決がいうように、右各取引のようなことを意図して行われたとするならばそれはまさに当事者の真意に基づいてなされたものというべきであって、これが無効となるいわれは存しない。

(二) 被控訴人は、予備的主張として、「控訴人らは昭和四八年四月一八日A、Bの土地の共有持分を円満院に坪当り約二〇万七六五六円の二分の一未満の額であり、右譲渡はいわゆる低額譲渡にあたる」旨主張する。しかし、右主張は、次のいずれの点からしても、失当である。

(1) 控訴人らがA、Bの土地の共有持分を譲渡したのは、昭和四八年四月一八日ではなくて昭和四七年一一月九日である。

(2) 被控訴人主張の右土地の時価は、昭和四八年六月一九日円満院が南箱根不動産に右土地を売却したときの価額坪当り二二万二〇〇〇円に時点修正を施して算定したものである。しかし、同年四月一七日中川らが株式会社まつもとに共有持分を売却したときの価額は坪当り一一万九七〇〇円、仮に売買代金総額につき一〇〇〇万円の圧縮があったとしても坪当り一四万四〇〇〇円であり、右金額は売主である中川らも妥当とした金額である。この二つの売買事例のうち被控訴人に有利な前者のみをとりあげて時価算定の基礎とするのは偏頗な主張というべきであり、控訴人らの共有持分の譲渡により近い後者を基準とするか、少なくとも両者を基準とすべきである。

のみならず、そもそも控訴人らが共有持分を譲渡した昭和四七年一一月九日当時の右土地の時価は、不動産鑑定士の鑑定評価によれば、坪当り一二万五四〇〇円である。そして、昭和四七年から昭和四八年にかけては地価が異常な高騰をみた時期であるから、昭和四七年一一月と昭和四八年六月とでは地価が倍以上になるということも十分あり得たことである。したがって、控訴人らの右土地の共有持分の譲渡は、いわゆる低額譲渡にはあたらない。

2  被控訴人

控訴人らの右主張はいずれも争う。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の各書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、その記載を引用する。

理由

一  当裁判所も、本件各更正処分及び各賦課決定処分は適法であって、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決理由のとおりであるから、その記載を引用する。

1  訂正

(一)  原判決九枚目表七行目「共有持分八分の三及び」を「共有持分八分の三を、昭和四二年九月、」と訂正する。

(二)  原判決九枚目裏五、六行目「D、E、Fの土地(本件土地)の共有持分全部を」を「D、E、Fの土地(本件土地)のうちD、Eの土地にあたる土地部分を(また、昭和四九年八月二日、Fの土地)」と訂正する。

(三)  原判決一〇枚目裏四、五行目「乙第一五号証の三」を「乙第一五号証の三、四」と訂正する。

(四)  原判決一三枚目表六行目「一億六七〇〇万余円」を「一億六七〇〇万円(ほかに利息三四万三四〇〇円)」と訂正する。

2  付加

(一)  控訴人らは、本件土地の控訴人らから買主が株式会社まつもとないし円満院であるとの主張を前提として種々原判決を論難するが、控訴人ら主張の売買契約がいずれも仮装のものであって本件土地は実質は控訴人らから直接南箱根不動産に売渡されたものと認むべきことは、原判決がその挙示する証拠によって詳細に認定説示するとおりであって、当審で取調べた証拠も右認定を左右するものではない。官署作成部分の成立に争いがなくその余の部分は当審松本善雄の証言により成立を認める甲第二一、第二二号証の各一、二並びに同証人及び当審証人中川重子の各証言によれば、円満院から名義貸与を依頼された株式会社まつもとが円満院のために昭和四八年四月一七日中川らからA、B、Cの土地の中川らの共有持分を買受ける契約を締結し同年四月二四日中川らに対しその売買代金を支払ったことが認められるけれども、円満院も控訴人角田吉夫の依頼により中間取得者を仮装したものであるにすぎず、右共有持分の真実の買主は同控訴人であり、右売買代金の出捐者も同控訴人であることは、原判決が採用した乙第一九ないし第二一号証、同第二二号証の一ないし七、同第六九号証の一ないし八、原審証人橋本忠彦、同西澤秀雄の各証言並びに当審証人中川重子の中川らは売買交渉は一切を不動産仲介業者である楠本順一に任せており買主は誰でもよかった旨の証言によって明らかである。他に右認定を左右する証拠はない。

(二)  控訴人らは、本件各土地の共有持分権は民法上真実順次売主から買主へ移転したのであって原判決のいうように仮装のものではない旨主張するが、原判決(及びこれを引用する当判決)の趣意を正解したものではない。すなわち、前認定の事実関係からすれば、円満院は控訴人角田吉夫から、株式会社まつもとは円満院から、順次中川らの共有持分の買受の委任を受けたが、控訴人らに対する課税を免れさせるため名目的買主となったのにすぎず、右各委任には買受後即時受任者から委任者に共有持分権を移転する旨の合意が含まれていたとみるべきものであり、右共有持分権は株式会社まつもとが中川らから買受けると同時になんらの意思表示を要せずして当然に控訴人角田吉夫に帰属するに至り、税法上の譲渡所得は株式会社まつもとや円満院には生ぜず控訴人らに生じたと認めるべきものである。その意味では株式会社まつもとや円満院に対する、あるいはこれからの譲渡を仮装だと称したのであって、民法上の虚偽表示等の意味でこの語を用いているのではないから、控訴人らの論難は的をえない。

(三)  控訴人らは、また、A、Bの土地の譲渡当時の時価を争い種々の主張をするが、この点は、被控訴人の予備的主張に対するものであり、前記のとおり被控訴人の主位的主張が認められる以上、判断の必要をみない。

二  よって、原判決は相当であって控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 露木靖郎 裁判官 下司正明)

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